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2024/05/08 12:17 |
小説を置いていきます

暇だしぽつぽつ連載してみようかなとか、思って見たり見なかったり。

「電子の海にたゆたう」という、ゆるいSF小説です。
不定期でぽつぽつ書いていきますので、どうぞよろしく。




「電子の海にたゆたう」



 *



0.
 大手ゲーム専門店には、今日も今日とて色んなニーズに応えてみせた企業の努力の結晶が整然と立ち並んでいた。
 剣を振り回し魔法で跋扈するファンタジーゲーム、大人っぽい先輩や素直ではない後輩と甘酸っぱい恋を楽しむ恋愛シュミレーションゲーム、宇宙の平和を守るため戦闘機に乗って侵略者を迎撃するシューティングゲーム、部屋の中でおやつ片手に大戦争なFPSゲーム、みんなで仲良く遊ぼうぜパーティゲーム……。
 独特の妖気と喧騒にまみれるこの店内は、店頭におかれたFPSゲームの銃声をバックミュージックに、日々のいらいらをゲームにぶつけるゲーマ諸君で、今日もなかなかの繁盛っぷりを見せていた。
 僕自身はあまりゲームを好んでプレイしないが、店頭に置かれたゲームを物色することは結構好きだ。洋服的に言えばウィンドウショッピングとか、そんな感じ。ゲームのパッケージ自体が多くの可能性をはらんだ物体であるため、それを見るだけでいろいろな想像が出来てしまう。実際にプレイするのも面白いが、こうやってプレイしていないゲームの中身を自由に想像するのもまた違う楽しみがある。その後大手の通販サイトでレビューを見るまでがワンセットだ。
 ゲーム史でもあまり取り上げられない、B級好き御用達のマイナーな-ゲームを手に取りながら、そんなことを考える。
 このゲーム専門店「KEYTOYS」は、県内でも有数のゲーム専門店だ。取り扱うゲームの幅がとにかく広く、在庫数も半端ではない。「キートイ(この店の略称)になかったら諦めるかおとなしく密林さん(大手通販サイト)にたよれ」と、県内のゲーマーは言う。店長が無類のゲーム好きなのもあるだろうが、子供向けRPGからガッチガチのオタク向けゲームまで幅広く取り揃えるこの店には脱帽する思いだ・帳簿管理も大変だろうに、ご苦労さまです。
 学校帰りこの時間帯は平日ということもあって、普段はそこまで客数は多くないのだが、今日はなかなかに学生が多い。
 まあでも無理は無いだろう。なんてったって今日はあの大人気ゲームの発売日である。うちのクラスのゲーマー共も、公式サイトで先行公開された情報にいちいち興奮し、前々から「買う気はない」と言っていた僕に、怪しい商法のセールスマンのごときしつこさで買え買えと勧めてきて、僕がかえってそのゲームに苦手意識を抱いてしまうことになった本末転倒な過去を持つ、あのゲームだ。
『Ifrit《イフリート》2』―――前作、『Ifrit』の続編にあたる、迷宮探索型オンラインゲームである。
 巨大な火山や山の中に出来た洞窟を探索し、モンスターを狩り、山を制圧し、財宝を持ち帰ることを目的としたゲームで、前作である無印版の売上は全世界で300万本。それまで無名だった不知火株式会社を第一線まで押し上げたそのゲームは、極めて高い自由度と充実した隠し要素で「スルメゲー」としての地位を確立させ、多くのファンを獲得するにまで至った。
 やればやるほど面白いゲームだとファンは言う。僕には少し合わなかったけど……。
 合わないゲームの続編を買うほど僕の懐は広くない。おとなしくレビューか攻略サイトを見て「プレイした気分」になっていよう。そう決めた。
 そんなものより、僕にはやることがある。
「ユキ、あたし仕事行ってくるから。ごめんね」
「いーってらっしゃい。なんか作っとくから」
「ありがとうユキ! 愛してる!」
 僕の額に唇を落として、お母さんは早足に家を出る。今日は夜勤らしい。いつもご苦労さまです。
 お父さんは遠くに転勤、お母さんは夜勤がちな飲食店のパートさん。必然的に一人になることは多く、それにともなって家事炊事の機会も多くなるから、炊事洗濯掃除は否が応でもそれなりに上達した。料理は未だにたまに失敗するけど。
 適当に何か作るだけ作って、洗濯機を回して、家に簡単に掃除機をかけた頃には、もう外は薄暗くなっていた。この後に宿題をしてようやく、僕に自由が訪れる。
「作者の気持ちなんて分かんねえよ……漢字わかんねえよ……日本人なのに…………」
 現代文という教科はどうも苦手だけど、時間をかけてなんとか終わらせる。これで一応、本日の業務は終了した。
 さて、と立ち上がり、背中を伸ばして固まった筋肉を伸ばす。凝り固まった関節の乾いた音が、ぱきんぱきんと鳴った。
「……ふっふ」
 今からのことを考えると、少しだけ胸が高鳴る。
 僕の趣味の時間が、ようやく始まるのだ。これを認識した瞬間の開放感は、何度味わってもぞくぞくする。
 赤外線によって繋がれたホログラムボードでパスコードを打ち込み、ロックを解除。時間遅延設定をONに切り替え、遅延時間を2時間/秒に設定。|再出《リポップ》座標を前日作った拠点の位置に定め、絡まった配線を繋ぎ、プロジェクタを起動、3Dホログラム画像を部屋の中に浮かばせる。暗い部屋に立方体の6辺を持って浮かぶ、拠点周辺のマップ。
 その後古典式のデスクトップパソコンを立ち上げ、パワーメモリの中身を確認。いつものソフトが入っていることを確認してメモリを取り出し、先にメモリをダイブポータルに挿入、起動。ウオオン、という古臭い起動音と共にポータルから緑色の光が漏れだし、安全装置のセットが完了、正常に稼働が開始する。
「…………よし」
 だいたいの準備は終わった。あとは身体だけだ。
 配線がたくさん巻き付いたヘッドギアを装着。中古屋のジャンク品として安価で買って、電気工作でとりあえず使えるようにしたゴミギアだが、自分で修理したこともあって愛着は湧いている。精神体と肉体を分離し、万が一精神体に異常が起きた時のために精神のバックアップを作成し、完了。椅子に座り、ヘッドギアのスイッチを入れると、ふわり、と身体が軽くなった。試したことはないが、無重力とはこんな感じなんだろうと思う。足は地面についているけど
 椅子から立ち上がり、糸が切れたように眠る自分の身体を見下ろす。配線がむき出しになったヘッドギアを付けて、どっかりと椅子にもたれかかる僕は相も変わらず変な顔をしている。自分でも思うがつくづく女顔だ。ダンディとかナイスガイとか、そんな色の黒そうな装飾語が頭に付かないまでも、せめてもう少し男物のスーツが似合う顔に産んで欲しかったと思う。
 整形でもしないと決して変わらない顔面事情にいつまでもかまってられないのは分かっているが、未練はいつまでも続く。ため息を付きながら視線を戻すと、先ほど起動したポータルが、まだ入らないのかと待ちわびるように淡い緑の光を漏らしていた。自分の口角が自然と弧を描くのが分かる。
「さぁ、いこう」
 遠出したときに訪れた、怪しげなリサイクルショップにて購入した、「ネット」時代のノートパソコン。このノートパソコンの一部がまだ前世代の電脳世界「ネット」につながることがわかった時には、柄にもなくはしゃいだことを覚えている。自分の持っているVR用機材を拙い工学知識で改造して半ば無理やりポータルにつなげ、今は時代遅れとさせる時間遅延認識機能も自分で調べあげて無理やり取り付けた。
 ネット―――今の時代のコンピュータケージワークの原型となった、世界最大規模の『雛形』、「ネット」ワークの略称。
 |蜘蛛の巣《ネット》を語源とした、コンピュータを接続する技術、ネットワーク。今の時代の情報学者からすれば「信じられないほどに容量が少ない」らしい、文字通り原初のコンピュータ接続技術は、まだ死んではいない。「ケージ」からはつなぐことは出来ないが、ある理由で存在はしている。あえて言うなれば、電子の「廃墟」として。
「|侵入開始《DIVE》」
 ポータルに足を踏み入れると、反応が始まる。
 緑色の光に身体が飲み込まれていく。感覚は無いが、自分の身体が丸裸になっていくのが分かる。
『ID:Threeship―――パスコード****認証完了。精神体を鑑定、登録ユーザー『三船雪待』を確定。時間遅延設定を開始。再出《リポップ》座標を確認―――CODE「U」認証完了。探索及び戦闘機能付属VR仮想土地開拓用自己防衛ソフト『Varietas《ヴァリエタース》』を精神体に設定。正常に精神体が起動しました。再出《リポップ》までしばらくお待ち下さい―――』
 絶え間なく広がる粒子の波の中、ひたすらに僕の身体は真下に落ちていく。
 速度は上昇しない。抗力が存在しないので現象もしない。ただ、何色にも光り輝くチューブのようなものの中で落っこちながら、電子の音声を聞き流すのみ。
 一応今の状態でも五感は存在しているが、身体はまっすぐ背筋を伸ばした状態から一ミリも動かせない。しかし、縛られているという感覚ではない。どちらかと言えば、身体を動かす感覚を忘れてしまっている、というイメージだ。しかし、不思議と悪い心地はしない。何十回と繰り返して、もう慣れているからであろう。
 落ちて落ちて、ずうっと落ちて、電子音声が止まって数瞬。
 目の前がまっしろな光に覆われて、意識が一時的に吹き飛んだ。
『転送完了。座標誤差-0.00025。正常に再出《リポップ》が完了しました。この地点のコードを表示しますか?』
『NO【Enter】』
『時間遅延認識時間、残り1:58:31。それではよい開拓を』
 目の前に広がるのは、青空だった。
 真っ白な建物がぽつぽつと立っており、あたりには草原が広がっている。昨日は|移動《ジャンプ》したと同時に再出拠点《リポップページ》を設定したため、どちらに飛ぶか少し曖昧だったが、移動《ジャンプ》した先に飛んだようだ。
 建物の一つ一つは、日本らしくはない。汚れ一つすら無い真っ白な壁面に備え付けられた、窓ガラスのない窓。よくよく見ればその建物は真っ白なレンガのようなもので作られており、近くで見ればうっすらと格子のような模様が浮かんで見える。どれも住居というよりは、灯台といったほうがいいほどの細さで、すべての建物には看板と囲いの柵が備え付けてあった。
 
『画廊』
 
 そう表記してある看板は、数十年前のものにも関わらず風化という言葉を知らないかのように、腐食の一つも見当たらなかった。
 
 ここは、最初期のコンピュータが作り上げた電脳世界「ネット」。
 今は完全に廃墟と化しているが、死んでいるわけではない。現にまだ僕が入れるということは、しっかり生きているのだ。人間が介入しなくなっただけで。
 僕は現代の世界では最早必要不可欠となった、仮想現実の技術を駆使して、このネットの世界に入り込んでいる。
 今の時代よりずうっと、ずさんで野蛮でどこか潔い、人類最初期の電脳世界の探索。
 それが、僕の新しい趣味だった。 





 プロローグです。わかりにくくてごめんなすって。




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2015/04/18 14:54 | Comments(0) | 小説関係

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